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       当日の様子CONTENTS


 今回は北海道大学の山村高淑先生に、「アニメ・マンガで地域振興は可能か?――各地の試みから見たコンテンツツーリズムの可能性と課題」というテーマでお話しいただいた(なお、先生のご著書『アニメ・マンガで地域振興 ――まちのファンを生むコンテンツツーリズム開発法』もぜひご参照いただきたい)。

 山村氏はまず、ご自身の立ち位置として、「コンテンツツーリズム」および「まちおこし」を定義している。前者は、「その土地の持つ世界観や、その土地を舞台にした作品や歴史の『物語性』に浸る旅のあり方、そうした『物語性』を他者と共有することで生まれる交流のあり方、そうした旅のあり方」であり、また後者は、「その集団、あるいはひとりひとりが持っているもの(自然環境、文化遺産、創造性など)を、集団内や他地域の人々と交流することによってより豊かにしていくこと」である。

 国土交通省・経済産業省・文化庁が2005年に共同で出した報告書によれば、コンテンツツーリズムとは、「地域に関わるコンテンツ(映画、テレビドラマ、小説、マンガ、ゲームなど)を活用して、観光と関連産業の振興を図ることを意図したツーリズム」と定義されている。そしてその根幹は、「地域に『コンテンツを通して醸成された地域固有の雰囲気・イメージ』としての『物語性』『テーマ性』を付加し、その物語性を観光資源として活用すること」とある。

 しかし、この定義は旅行商品の生産者目線であり、もはや旅行商品を生産者/消費者という二項対立で現象を見ること自体が、現実にそぐわなくなってきている。「作品を通して地域に付与された物語性を資源とした観光」がコンテンツツーリズムの根幹であるならば、地域が意図した観光振興のみならず、地域が意図しない自然発生的な旅行行動もコンテンツツーリズム研究の対象とすべきものとなる。

 この「地域が意図しない自然発生的な旅行行動」の格好の事例が、アニメ『らき☆すた』の舞台となった埼玉県鷲宮町への「聖地巡礼」である。そこでは、ある具体的な場所という「メディア」を通して、そこに付与あるいは内包された非物質的価値、すなわち「物語性」という「コンテンツ」を味わう行為が営まれている。ここで「コンテンツ」とは単なる消費財ではなく、人と人の心の間、あるいは人の心とある対象との間で共有されることで初めて価値を生むものであり、それは経済的な価値というより、感性的な価値である点に特徴がある。この共有される「コンテンツ」を介して、地域・自治体とファン(旅行者)が協働した場が鷲宮町なのであり、コンテンツだけでなく、こうした「感情がコンタクトする接点としての場」そのものも共有することが重要なのである。
神戸大学文学部での会の様子
会の様子
 こうした点を踏まえ、山村氏はコンテンツツーリズムを、「地域やある場所がメディアとなり、そこに付与されたコンテンツ(物語性)を、人々が現地で五感を通して感じる行為。そして人と人の間、人とある対象の間でコンテンツを共有することで、感性的・感情的繋がりを作り出すこと」と戦略的に定義している。さらにまた、地域、著作者・製作者、ファン(旅行者)の三者が協働して作品と地域の価値を高めあうという、新たな地域振興のための「コミュニティビジネス」のトライアングル・モデルも提示している。それは言い換えれば、観光まちづくり、コンテンツ産業振興、旅行者の自己実現の3点に資するツーリズムのあり方である。

 講演後、学生からは質問や感想が旺盛に飛び交った。アニメでのまちおこしが成功する事例と盛り上がらない事例との差がどこにあるのか、東京から発信するという発想を破って地方からいかに発信していくか、実際に聖地巡礼をするファンとアニメを見るだけで満足するファンとの差はどこにあるのか、アニメでは聖地巡礼が起きるがマンガでは起きないことの理由は何かなど、先生に丁寧にお答えいただき、会の全体を通して非常に密度の濃い時間となった。(文責:大久保)